megamouthの葬列

長い旅路の終わり

二つの邂逅とその対話

崑崙に至る山麓の途中、網中と呼ばれる谷に小さな草庵がある。というよりあった。
そこには過去に偉大な仙人が住んでいたとも言う人がいるし、いや、あれはただ取るに足らないことを言うだけのペテン師であったという人もいる。

ともかく、今、その草庵は荒れ果て、付近の村人からは「散庵」などと呼ばれていたが、私が訪れると、屋根などは所々が破けて、初夏の日差しがまだらな模様を黒い土壁につけていた。

中は思ったよりもひんやりしている。私は、かつて居間があったと思われるささくれだった板の上の身を横たえて、草庵の入り口から見える竹やぶの笹が風に揺れて色々な光を放つのをぼんやりと眺めていた。

「勝手にあがりこんで、昼寝を決め込むとは無礼な男じゃな」
背後から声をかけられた。いつのまにか腰のあたりまで髭を生やした老人が見下ろしていた。
驚く間もなく、老人が杖がわりにしている木の枝の先端が私の顔のすぐそばに突き立てられてドンと音がした。

「貴様にはやると決めた事があるだろう」はい…すいません。
「何故やらんのだ」いやだって…反応もないし…
「そんなもの貴様は求めておらんかったろう」そうなんですが、書けば書くほど人生が削り取られているような気がして…いつのまにか対価を求めるように…
「なんと浅ましい!」
と老人は憤慨して狭い草庵の中を覚束ない足取りで歩き回った。
「貴様の人生など、元よりとるにたらん。それが便所紙の如き消費をされたとて、何を嘆くことがあるのじゃっ」
侮辱たりうる言葉ではあったが、私は恐縮する他なかった。

「人生を描くことが惜しいというのなら、書かなければ良い。な?」
ですが、現代のプレカリアートの…テクノクラートのそれを描くこと…
「そういう下卑た話は外でしてくれんかの。到底聞くに耐えん。お前と比べたら、女の子の将来なりたいランキングのほうが何倍もマシじゃ」
しかしそれでは、意味が…
「意味?意味と言うたか、この若造が。」
老人の目が険しくなった。
「わしが無意味なことをしているとでも思うておるのだろう?」
い、いや、そのようなことは滅相もありませんが
「所詮、わしらがやっとることはチリ紙配りじゃ、街をゆくものが鼻を噛んで終わりじゃ。」
老人はきっぱりと言った。
「まあ、中には一緒に入っとる広告を見る者もおるようじゃがの」
と片目を瞑って、ウィンクした。チャーミングというよりは不穏と言うべきものだった。
「どちらにせよ、貴様に教えてやることなど、何一つない。わかったらさっさと出ていくのじゃ」


さて、こうして老人に草庵を追い出された私は、山中を歩き回ることになった。
いつの間にか日も暮れ、月明かりさえもない。

ふと、眼前に煌々たる光が見えた。しかしそれは暗闇に目が慣れていたせいで、実際には小さな焚き火にすぎぬようであった。
私は、蛾のように焚き火の前に彷徨い出た。焚き火の傍らには、神経質そうな若者が黙々と炎に小枝をくべている。


「君は人を殺してきたね?」
私が焚き火のそばに腰をかけると、若者は唐突に言った。もちろんそんなことはしていない。
「ふーん」
否定しても、何の反応も示さない。なんなのだ。
若者の傍ら、焚き火の光から影になったところに、青い髪の少女がぼんやりと座っているのが見えた。
そちらの方は?
「こっちが見える人もいるもんでね。まあ君には見えにくいなら気にしなくいい」
そういうものか、と私は思った。

「言っておくけど、Buzzる方法は教えないよ」
若者は言った。私は心中を見透かされたようで、息を呑んだ。

「言ったところで、君は実行しないし、むしろ僕を軽蔑するだろうからね」
そんなことありませんよ。私は本心から言った。
「いいや。君は人を踊らせることを軽蔑している。それでいて、哀れんでほしいんだ」

「僕に、言わせれば、そこに何も違いはない。好みの餌を用意してやっても、哀れっぽく泣き言を書いても、入るところは連中の脳みその中にある胃袋さ、それこそ『入ってしまえば同じ』さ」
といって、彼は、また小枝を炎に投じた。
「なら、自分から餌を放り込んでやればいい。連中はただ食いたがっているだけなんだから。」
まるでこの炎のようにですか。
「そう。常に焚べてやらないとね。君も少しは連中の好みに合わせてやったほうがいい」
もう語るべき言葉がないのです。
「そりゃ…自分を食わせるからだよ。同情の余地もないね」
私はここでも悄然とするよりなかった。

「どこに行くんだい?」
私が焚き火の側を離れて、さらに暗い山奥に向かう時、初めて若者はこちらを向いて言った。
ここよりさらに暗い場所に行けば、あるいは、と思ったのです。
「馬鹿げた考えだね。この先には何もないよ」

私は、それでもかまわず、草を掻き分けて影に向かって歩き続けた。

やがて、地が終わり、崖にさしかかったようだった。
私は足をとめて、崖の下を見下ろした。


はたしてそこには何もなかった。
私は地と同じ色をした空を見上げる他なかった。


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