プログラマの美徳
これの続き
午前2時に目が覚めた。確か悪夢を見ていたような気がする。
目を開けると、寝室の壁中に文字が浮かんでは消える幻が見えた。
僕は特に驚くでもなく、ベッドに身を横たえたまま文字に目を凝らす。
漢字ともひらがなともとれない文字は、全く読み取れず。やがて消えてしまった。
喉が渇いていた。僕はキッチンに向かうために寝室のドアを開いた。
真っ暗なリビングで、液晶のバックライトが彼女の顔を浮かび上がらせている。ソファに座った彼女がノートパソコンを膝に置いてキーボードを叩いていた。
僕は冷蔵庫からミネラルウォーターのペットボトルを取り出すと、歩きながら何気なしに彼女のディスプレイを覗いた。
真っ黒な背景に、英文が周期的に並んでいて、彼女のキーボードの操作とともに、英文が瞬くように上下する。
明らかにプログラムだ。それも僕が書いたものだ。と直感した。
「プログラムがわかるのか」
僕は驚いて言った。彼女はこちらを一瞥するでもなくディスプレイを見ている。
「内容まではわからないわ。ただ、あんたがどういう人間なのかはわかる」
と彼女は言った。僕は少し馬鹿にするような口調で言った。
「じゃあ、僕はどういう人間なんだ?」
「傲慢。ただひたすらに。」
僕はミネラルウォーターをごくりと飲んで、辛うじて声を出して言った。
「プログラマの美徳だよ」
「傲慢、無精、短気。でもあなたは無精でも短気でもないみたいね。」
と淀みなく彼女が答えたので、僕は狼狽する。
「才能がない、とは言わないわ。でも一人で仕事できるほどじゃない」
「そうボスに報告するのか?」
「まあね。遅れの原因は能力不足、とは言うかもね」
僕は憮然とした。
「あの値段でシステムを書く人間が他にいればいいけど」
反射的に皮肉が出た。自分が感情的になっている、とその時気づいた。
やっと彼女が顔を上げた。そして不思議そうに寝起きの僕の顔をまじまじと見た。
「なんだか不服そうね」
僕が黙っていると、彼女は気が知れないというようにかぶりを振ると呆れたように言った。
「あんた達って、いつもそうよね。じゃあ何?こいつは怠けていたので仕事が遅れています。と報告したほうがいいっていうの?」
「そういうわけじゃない」
僕は下を向く。
「…でも能力がない、と言われるのはもっと辛いんだ」
彼女があまりにも図星をつくので、怒りはどこかに行ってしまって、ただ素直な気持ちになっていた。
その時の僕は彼女に慰めてほしい、とさえ思っていたかもしれない。
「そういう所がわからないのよ」
と彼女は言った。
「あんたたちのそういう傲慢さがね。全力で頑張ったけど間に合いませんでした。でいいじゃない。それで丸く収まるのに、本気でやってないからとか、俺はこんなもんじゃない、って必死に言いはるの」
「誰もあなたに完全は求めてない。ただ人間として扱っているだけ。でも、それが悪いことのように言うんだから、私にはその気持ちがわからない」
僕には返す言葉がなかった。