megamouthの葬列

長い旅路の終わり

Webディレクターだけど、異世界の開発会社に転生した -前編-

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の続き

炎上(バーストダウン)

マクシミリアン公爵の執務室で、その哀れなエルフは震える手で羊皮紙を、公爵の座る重厚なテーブルに載せた。

公爵「ふむ、これが義勇兵募集キャンペーンページの修正後のデザインというわけか」

デザイナーであるエルフは力なく頷いた。美しかった純白の髪には艶がなく、顔からは生気が失せている。

公爵「・・・なんか違うのだよ。こう、ガーとした力強さが足りないというか・・・」

そんなエルフの様子を一瞥することもなく公爵は言い放った。

エルフ「・・・」

エルフはもはや反射的に頷き返すのみで、それに対して何の弁明もできないようであった。いや、弁明する気力もない、といったところだろうか。

公爵「しかし、あまり残された日もないことだしな・・・これで良い」

エルフ「!」

エルフの顔に驚きと、安堵の表情が浮かび上がった。そしてそれは同時に張り詰めていた彼女の糸を断ち切ったようだった。
ヒュイという奇妙な息を吐いたかと思うと、彼女の体はそのまま床に崩れ落ちてしまった。

ジャムス「大丈夫か!?」

僕とジャムスがエルフに駆け寄る。彼女は息も絶え絶えに執務室の床にその身を横たえようとしている。慌ててジャムスがエルフを担ぎ込む。

公爵「それで、今回のキャンペーンページについてなんだが。デザインはこれで良い。だが・・・」

彼の視線は、ジャムスがエルフを助け起こそうとしている光景をさっと過ぎると、僕に据えられた。

公爵「キャンページページからそのまま応募できたほうが何かと便利だと思うのだ。ささっと応募フォームを追加してもらいたい」

ジャムス「!」

ジャムスの顔に困惑が広がった。プロジェクトリーダーであるエイダは、大魔法院の会議でこの場にはいない。そんな重要な事を代理である僕しかいないところで決めさせようとしているのだ。


僕「・・・期限はいつ頃になりましょうか」

僕は冷静さを崩さず、あくまでうやうやしく、公爵に尋ねた。

公爵「キャンペーンの開始は3日後としておる。それまでに。ということになるか」

ジャムス「3日ですと!」

思わず声を上げる。なるほど、エイダを出席させなかったのはこれが狙いか、僕は公爵の魂胆に気づいた。
つまりは、宮廷での地位も高く、弁もたつエイダのいないところで、無理難題を通そうと思っているのだ。

少し思案して、僕は顔を上げた。

僕「公爵様は魔族との戦争で数多の功績がある方だと聞いております」

公爵「ほう、異世界人であるお前もそれぐらいのことは知っているようだな」

僕「しかし、戦場には『拙速』という言葉もございましょう」

公爵「なんだと?」

この下賤な異世界人が何か意見を言おうとしている、そんな気配を感じ取った公爵の目つきが険しくなった。それは驚くほど冷徹で残酷さを秘めた視線だった。
僕は怯まず続けた。

僕「公爵様のご尽力で、キャンペンページの見事な出来映えとなりました。いわば陣容は整ったといったところです。」

公爵「ふむ」

実際にはエルフの功績だが、公爵はまんざらでもなさそうである。

僕「キャンペーンページを公開した後、おそらく国民の義勇兵への志願の意気は大いにあがりましょう。
しかし、その『熱』がいかほどの物か、我々はまだ見ておりませぬ。いわば相手の陣容は未だ明かでない。と言えましょう」

公爵「むむ」

僕「凡庸な将軍であれば、義勇兵の志願者数などタカが知れております。そういった方のCPであれば、我々としても応募フォームの一つ二つ簡単に作り上げてみせますが・・・」

ここで、一呼吸あける。

僕「・・・恐れながら、公爵様のキャンペーンページは、こちらの想定を上回ると思われます!」

公爵「ほほ、そうか!」

僕「ならば、民の愛国の熱はそのままに、万全を期し、いったん『応募は○日後』として、日を空けるのも一興かと」

公爵「そのほうの言い分ももっともだ。民草の愛国の情を少し焦らすのも面白いかも知れぬ」

ジャムスは気を失ったエルフを背負って、僕のほうを呆れたように見ている。よくもそこまでおべんちゃらを言えるものだ、といった顔であった。

公爵はしばし思案していたが、顔を上げて言った。

公爵「ではキャンペーンページ公開の1週間後といったところでどうだ。今から10日後ということになるか」

僕「十分でございます」

公爵「しかし」

公爵の目が再び、厳しく僕を捕らえた。

公爵「いかに代理とはいえ、その言葉、大魔法神官(エイダのこと)が言ったものと考えて良いだろうな?」

ジャムス「そ、それは・・・」

僕「私は一介の研究員に過ぎませぬ。しかし、それでも大魔法院の末席に列する身。
二言はありません。もし出来ぬとあれば・・・」

公爵「?」

僕「その時は、我が首を差し出しましょう」

公爵「ははは」

公爵は破顔して、その豪快な笑い声を執務室に響き渡らせた。しかし、その目は変わらず冷徹にこちらに向けられている。

公爵「その方の言葉、確かに受け取った。良いな!10日後だぞ」

作戦会議(ブリーフィング)

魔法院にある、エイダの会議室には重苦しい空気が漂っていた。

ジャムスは苦虫をかみつぶしたような顔で黙り込み、他の神官たちも、要求仕様書を前に呆然としているようだった。

エルフは会議室の端に椅子を並べられ、その上で器用にグウグウと眠っていた。

バタンッ

会議室のドアが開いた。エイダだった。

エイダ「ちょっと!聞いたわよ!どういうこと!?」

僕「すまない。押し切られてしまった。僕の責任だ。」

僕はエイダに頭を下げて言った。

エイダ「そういう事じゃないわ!どういうことなのあなたの首を賭けるって!」

驚いて顔を上げると、エイダの透き通るような白い肌は怒りで真っ赤になっている。

エイダ「そんな馬鹿げた条件で仕事を受けるなんて!」

僕「何を言っているんだ。僕一人の責任になるだけなんだぞ」

エイダ「ふざけないでっ!あなたを失ったら私はっ」

僕「?」

何故、彼女がそんなに怒っているのか、よくわからない。戸惑ってジャイムのほうを見ると、意味ありげな顔でエイダと僕を交互に見ながらニヤニヤとしている。

エイダ「ま、まあそんなことはいいわっ!それでも10日なんてよくも無茶な条件を受け入れたものね。要件定義すら出来てないっていうのに」

僕「それが限界だったんだ。それに不可能なら、僕もこんな話を受けたりはしないよ」

エイダ「方法があるの?」

僕「なくはない。ただ、幾つか情報が欲しいのと、君のコネを使って、色々とやってほしいことがある」

エイダ「何だってやるわよ!あなたって本当にどうしようもない奴ね!」

彼女は相変わらず怒っているようだが、その表情は幾分か和らいでいるように見える。

そんなに怒られなくて良かった。僕はとりあえず思った。

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