megamouthの葬列

長い旅路の終わり

なぜ(一部の)人はサービスを作り(作らせ)たがるのか?

最近目についた言葉に「労働者は時間を切り売りする。金持ちは仕組みを作る」みたいなのがあって、言葉そのものについては、はーそうですか。としか高卒フリープログラマとしては言うことがないわけですが、この「仕組み」とITサービスについては言いたいことが幾つかあるので、これからサービス作って一発当てたるぜ的な夢想をしている人には是非読んでもらいたいと思っています。

「仕組み」には資本が不可欠

別に1章割いて書く話でもないんですが、「金持ちは仕組みを作る」という言葉を「金持ちになりたければ仕組みを作れ」と勝手に読み替えている人が妙に多い気がするし、そのへんのビジネス書とか起業指南書とかも、意図的なのかどうかは知りませんが、そういう読み替えをさせている部分があるように思うわけです。

例えば、「石油を掘って売れば儲かる」というのは一つの仕組みと言えますが、石油を掘るにもお金がいるし、石油が売れるようにするためには石油化学系の商品開発だって必要です。こういった石油関連工業全体に対する投資があって、「石油を掘って売る」という仕組みが始めて成立するわけです。つまり、「仕組みを作るには投資がいるし、投資するには資本がいるよ」という当たり前のことです。なので、「金持ち(資本を持っている人)は仕組みを作る(ことができる)」というのが、この言葉の本来の意味なのではないか、私は思っています。(そもそもこの言葉の出典がわからないので、正しいかどうかは知りません)

ITサービスという魔法

で、そういう自明の話が、だいたいここ20年ぐらいで変わってきて、どうもITサービスとやらを介すことで、資本がなくてもアイデアと情熱で仕組みが作れるぞ、となってきた感があるわけです。一昔前なら「Yahooみたいなポータルサービスを作れば大儲けできるぞ」でしたし、ちょっと時間を経たら「Facebookみたいなサービスを作れば大儲けできるぞ」とかとかですね。
もちろん、YahooもFacebookも、大学のサーバーで稼働していたしょーもないシステムがスタートであることは間違いないし、それらに投資して資本を注入してくれる人がいた結果、あれほどの規模になって時価総額もうなぎ登りで、創業者はヨットで世界一周できるような金持ちになったことは事実ですが、このあたりのドットコムバブルのレアケースをもとに、「資本のない僕たちもアイデアさえあれば仕組みを作って大儲けできる」という幻想が生まれてしまったような感があります。

で、言うまでもないことなんですが、これらの「成功例」はただ単にやるタイミングが良かったとか、投資家が見つかったとか、いいエンジニアがいてくれた(もしくは自身が優れたエンジニアだった)とか、競合が出来てたけど何か知らんうちに死んでた、とか、そういうものすごい運の良い出来事が重なった結果であって、ITサービス(当時であればWeb)があったから、というのは、「ゴールドラッシュの時にジーンズがバカ売れ」の時の「ゴールドラッシュがあったから」に相当する程度の「成功のタイミング」に属する話であって、ITサービスという魔法が、「大学のかわいこちゃんの写真を並べて共有したい」というクソくだらねえアイデアを今のFacebookに変えたわけではないのです。

イデアの欠陥

前述した内容は、まともな頭をした人間であれば全員理解できる話だと思うんですが、未だに「こういうアイデアを思いついたからシステム作ってくれ!予算は10万円!」とか言うバカが絶えません。しかもだいたい彼らのアイデアには欠陥があります。

  • そもそもマネタイズの方法がない、というか広告でなんとかなると思っている
    • 別に一人でコツコツとアフィブログでも作るならそれでいいんですが、システムを作る以上、運用費と初期投資(開発費)を回収できる目処すらたてないのはいかがなものかと思います。
  • ユーザー数が3万クラスに達して始めて、まともに動きだすシステム
    • CMでも打つつもりなら別ですが、ユーザー数が3万クラスに達するのに早くても1年はかかります。その間のユーザー体験をまったく考えていない。総出品数5件のオークションサイトに入会するユーザーが存在すると思う?
  • なんでもできるシステム
    • FacebooktwitterとLineを足したようなサービスを作りましょう!いいね!できたらいいね!
  • 既存のサービスの不満を解決しただけのサービス
    • Facebookってここがダメじゃないですかーだからこうしたらいいと思うんですよー。まずお前はFacebookの競合になるわけだが、その競争に勝つ準備はもちろんしているんだよね?

とまあこんな感じです。

(おもしろいのは、彼らが私やLancersやCloudWorksにシステム構築を発注する場合、大抵は、1人月10万ぐらいになってしまうような舐め腐った単価で発注してきます。そんな単価で作るエンジニアがいるのか、いたととしてもそいつはまともにシステムを構築できるのか、完全に謎なんですが、最近は、「実はそのアイデアが陳腐で通用しないことを心の底で自覚していて、わざと作らせないようにしている」と思うようにしています。)

イデアという「仕組み」

とはいえ、実際のところアイデアには欠陥があっても問題はないのです。本当にいいアイデアならば、瑣末な部分は修正していけますし、投資だって受けられるかもしれません。だいたいのことは金という物理で殴れば解決できます。ですが、アイデア勝負のシステム発注者の大多数は、長い運用と修正をし続ける覚悟も、投資家とのコネクションも持っていません。なのに何故彼らは夢を見続けるのか、というと、

ITサービスは、悪いアイデアをいいアイデアに変える力はないかもしれないけど、「仕組み」に変えることはできる。

という幻想があるからなのではないか、と思うのです。

先程の悪いアイデアの例で言えば、

  • マネタイズできない
  • ユーザーがいないと成立しない
    • 全世界につながるITサービスならユーザーなんてすぐ集まる!

といった感じです。つまり彼らは出来の悪いアイデアをITサービスという魔法で、「仕組み」に変えたいと願っているわけです。

ですが、先述のとおり、悪いアイデアを仕組みに変える事ができるのは、実際のところは『資本』という厳然たるパワーのみです。

ですので、ザッカーバーグワナビーの皆様には以下の忠告を守っていただきたいと思います。

  • 本当に人々に必要とされるシンプルなアイデアを持ってください。UIがどうとか、使用シーンがどうとか、そういうのはどうでもいいです
  • そこそこの実力のあるベンダーを探して、RFPを作成して、見積もりをとってもらってください。相手にしてくれない?Lancersにぶっこむつもりだった10~30万を提案料として出せば、RFPぐらいは大抵喜んで書いてくれますよ。
  • 月々の運用費と収入を計算してください。事業計画を練ってください。
  • それを持って投資を集めるか、家屋敷を担保に金を借りてください。

ここまですることができたなら、もはやあなたのアイデアは実現間近です。間違っても私やLancers,CloudWorksに案件募集をかけるなどという考えは頭にはなくなっていることでしょう。

というわけで、サービスを作りたいと考えているクライアント様におきましては、今後はこの文章を熟読いただき、ふっわふわの見積依頼を私に持ってくるのはご遠慮ください。

以上、よろしくお願い致します。拝承。

サービスデザインの教科書:共創するビジネスのつくりかた

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